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zoom RSS シューマン『ピアノ協奏曲』の演奏比較

<<   作成日時 : 2008/12/06 11:25   >>

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60.『ピアノ協奏曲イ短調』

 ロマンティック協奏曲の代表に数えられているけれど、グリーグとのカップリングでやや小品のイメージが付着しているかもしれない。グリーグが群小作家扱いされているのもどうかと思うが、有名な交響曲やオペラがないとそういう扱いになるA面的価値観はいまだにのさばっている。
 この協奏曲は交響曲と同じく、あふれるほどのテーマで埋め尽くされていて、魅力満載。しかも昂然とはじまって、圧倒的な名技で締めくくられる。その間に、繊細極まる音楽がちりばめられている。交響曲と同じ方法論的な難しさに加えて、ピアニストにとって演じところが多い。

ヘス/シュヴァルツ・フィルハーモニアo バックハウス/ヴァント・ウィーンpo ハスキル/オッテルロー・ハーグpo リパッティ/カラヤン・フィルハーモニアo コヴァセヴィッチ/C.デーヴィス・BBCso ブレンデル/アバド・ロンドンso ピリス/アバド・ヨーロッパco ダルベルト/インバル・ウィーンso アンスネス/ヤンソンス・ベルリンpo

●ヘス。情緒的な沈潜の傾向が強い演奏。恣意的ではなく、情緒の論理を追いながらなめらかな音楽の推移を聴かせてくれる。突発性への目配りもみせるが、機械的にならないところが美点。この情緒の論理を追う、という方法論はこの段階では未完成で、弟子のコヴァセヴィッチにおいて完成の域に到達する。
●パックハウス。頻出するテーマを細かく区切らず、長大なテーマとして捉える割り切りを感じる。トリルやグリッサンドは不器用で、ピアニスティックな部分での見せ場はすべて不発。そういことに見向きもせず、淡々と弾き進め、どっしりとし強さのなかに、ほのかな詩情がただよいはじめる。ヴァントの指揮するオーケストラ部分が立派。
●ハスキル。細部中心の演奏ながら、細部にこそ神宿るとまでは言えない彫啄の粗さがある。この録音に際してのコンディションが良くなかったのか、ところどころ無闇に興奮する。スラー、リタルダンド、マルカートなどを多用して詩情を出すことに務め、なよなよとしてる。オケの粗さと対照的。
●リパッティ。細かな変化に敏感な演奏。静動の変化が大きく激しい。カラヤンの煽りも激しい(まだテンポが速くトスカニーニ的だった時代)。情緒が粘っていて、しかも速いのでめまぐるしい。どこか人を圧するようなものがあって、ブザンソンの告別リサイタルをリバッティの本領だと考えると、異質の音楽に聞こえる。
●コヴァセヴィッチ。まずピアノとオケの息が合って気持ちのいい掛け合いになっているところが魅力。音楽の緊密な空気が気持ちいい。ピアノは無音の静謐に溶け込んでいくような詩情が美しい。その詩情に沈潜しながら千変万化する音楽の流れを無理なく作り上げている情緒の論理、これこそ師ヘスから受け継いだ2代に渡る労作。じわじわと感情を高めた上で、数少ないffを決めるときにはビシリ、ドシンと打ち抜く強さを合わせ持っている。とくに第1楽章のカデンツァの画然とした響きは立派で詩情と構成感が見事に融合している。第2楽章のソットヴォーチェの魅力、第3楽章の弾力のある響きを活かした前進力。どこを取っても魅力に満ちあふれている。
●ブレンデル。明瞭、硬質の音。テンポを落とした時も情緒にのめり込まないように注意しているような抑制の目立つ演奏。部分的なテンポの出し入れについては、意外に激しい。構成上の変化によって大きな情緒の入れ代わりを狙っているのだろうが、すべて不発。緩徐楽章で情緒を避けているし、終楽章のキレもない。70年代、モーツァルトの協奏曲全集やリストで聞かせた自由な音楽の飛翔はどこへ行った、と問いたくなる。
●ピリス。音量が小さく、繊細さと濃やかな表情でしっとりとした音楽を聴かせる。伴奏も室内オケで透明感があり、ソロ楽器が浮き上がって聞こえる。冒頭、ピアノを受けてオーボエ、フルートとつなぐあたり、よく歌って、応唱形式のような楽しさがある。緩急の差が大きく、ボリュームで不足する部分の補いを付けようとしている。半分うまくいっているけれど、無理に力を入れたような感じのところもあって、少し座りが悪い。
●ダルベルト。明確、清涼。詩情と構成感、沈潜と激情がむりなく融合、知らず知らずの間に往復させられている。破綻のなさがつまらなさと、言いたくなるほどに完成している。走り出すのを抑えながら徐々に興奮して、音楽が熱くなっていく。方法論とまでは呼べないけれど、よく磨かれた演奏。
●アンスネス。緩急のリズム、大小のリズムが規則的にあって、全曲を通じて行ったり来たり軽快な伸縮を繰り返す。音色は軽く(オケもベルリンpoにしては軽量に感じられる)楽しくはつらつとした感じ。単純な割り切りで、底は浅いけれど、その解釈の範囲で完成した演奏。

 奏者それぞれの美意識、持っている特質にしたがって、アプローチは分かれてくる。交響曲のときと違って、音楽の本質論とは別の所からのアプローチの決定がある場合も。アンスネス(ヤンソンス?)のようにあっけらかんとした考えもある。なかなか音楽は難しい。

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