ラヴェル『ヴァイオリンソナタ』の演奏比較

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38.『ヴァイオリンソナタ』
 第2楽章にブルースを持ってきた、当時としては斬新なソナタ。20世紀初頭のモダニズムの香りがプンプンしている。聴きやすいのに新しさを感じさせられるということで、ヴァイオリニストもよく取り上げたがる。人気曲の部類だろう。どういうわけか、伴奏をピアノのソリストが務めるケースが多い。それだけ充実した作りになっているということか。あくまでヴァイオリン主導の曲ではあるけれど。
 もう過去になってしまった新しさにたいしてどのようなアプローチをするのだろうか。

オイストラフ/F.バウアー ワレーズ/リグット カラシリ/バルダ ボナルディ/N.リー カントロフ/ルヴィエ ムローヴァ/カニーノ テツラフ/アンスネス レーピン/ベレゾフスキー

●オイストラフ。たっぷりとした豊かな音色がこの人の魅力。しかし、ここではぼってり暑苦しく感じる。官能性に脂ぎったものが加わるようで、ラヴェルのクールさとは異質だろう。軽い粋さが失われてしまう。
●ワレーズ。反対に硬い音色。ちょっと突き放したような表情がむしろラヴェルらしく感じられる。ブルースが小粋に響き、憂鬱のなかにたゆたうところが、後のアンニュイという価値観を先取りしていたのかと思わせる。
●カラシリ。なよなよとしないブルース。全体にパッキリとした姿勢が貫かれている。力強くしっかり演奏すれば、自然に音楽が立ち上がってくるという、ラヴェルらしさをよく捉えたクールな繊細さに満ちたものと言えるだろう。
●カントロフ。澄んで落ち着いた音色、そして音楽。近代フランス音楽はサン=サーンスが「エレガンスとクラルテ(明瞭さ)」と言って以来、分かりやすさを目指したけれど、ラヴェルの音楽には曖昧な部分がどこにもなく、まさにクラルテの代表。この演奏はそのことをもう一度、音の明瞭さによって輪を掛けて明らかにしてくれている。柔軟で繊細なブルースは洒脱という表現が似合う。
●ムローヴァ。伸びやかで澄んだ音色。カニーノもビアノの音色に芯があり、まとまった音色。力強いビートでヴァイオリンをリードしている。一心に前進するブルース。少し単純に割り切り過ぎているとも思うが、力強さも生まれていて、いい特徴と捉えるへきなだろう。
●テツラフ。軽い入りから、音楽はずっとmp以下で進行する。禁欲的で密やかな音楽。狭いダイナミックレンジのなかで、さまざまに表情豊かにする努力をしている。粘り強い集中力が魅力か。
●レーピン。強いボウイングでたっぷりした音量、つややかな音色を引き出すところはまさにオイストラフ2世。力づくでグイグイと音楽を進める。迫るようなブルース。

 意外なほど、だれも曲の位置付けには頓着せず、イノセントにナイーヴに正面から音楽に立ち向かっているようだ。歴史分析もマーケティングと同様、かえって音楽を薄っぺらにするということを、悟っているのだろうか。だとすれば歓迎すべきこと。