ドビュッシー『弦楽四重奏曲』の演奏比較

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34.弦楽四重奏曲

 古典的な枠組みにまったく新たな息吹を吹き込んだ名曲。ソナタ形式の堅固なイメージはなく、ひたすら魅惑的、遊戯的で楽しい曲だ。31歳。ローマ大賞受賞者の義務を果たさず、音楽院やアカデミーを敵に回してしまった若造がチャンスを掴んだ意欲作でもある。

バルナンQ ヴィアノヴァQ ジュリアードQ ターリヒQ ヌォーボQ イザイQ カルミナQ

●バルナンQ。カタカナでパレナンと表記されることが多いけれど、スペルからするとパルナンが正解だろう。名手揃いで充実した響きにあらためて驚く。4楽器均等の分厚い響き、動性を強調した演奏で、がっしりしているのに曲芸的に感じる部分もある。強拍を目立たせ、スラーを強調するなど、伸縮するリズム感でふわふわと漂うような快感がある。
●ヴィアノヴァQ。こちらも、それぞれソリストが務まる猛者揃い。劇的で、一点をめざして駆け抜けて行くような痛快さと狂おしさが同居する演奏。3楽章だけ抑制がはたらくけれど、全曲通じてアタックが強く、ピチカートも力強い。
●ジュリアードQ。理知的、分析的な演奏の創始者のようなイメージで聴いてしまうが、おそらく拍子抜けしてしまうだろう。ここで紹介するなかで一番感傷的で、自分の築いた情趣に心揺さぶられながらの演奏。音色の細さと神経質さが耳に付く。
●ターリヒQ。いつも通り、ザラッとした音色。この雑音を含んだ音色は、純音指向のある西洋音楽の世界では異端に位置付けられるべきもの。しかし、その官能に直接働き掛けてくる音色に一度捕われると、すべてをこの音で聴いてみたくなる。ドビュッシーの世界はやはり協和音の安定的世界から逸脱しているので、ターリヒとの相性がいい。しかも音が消え入る行き先に精神を集中させているような演奏は、東洋的な価値観すら備えていそうだ。ガムランの美を認めたドビュッシーにふさわしい演奏。
●ヌォーボQ。往年の名クァルテット、イタリアQが解散し、そのリーダーだったキアラッパが新たに率い、短期間活躍した団体。艶やかで澄んだ音色が魅力。なめらかで伸びやかなカンタービレがさらに魅力。流暢な演奏だけど、ときおり立ち止まって音楽を観察し、方向を見定めるようなところがある。“めくるめき”と“たゆたい”が交代する音楽。
●イザイQ。これを録音したのはデビュー間もない頃。若い団体としては充実した演奏。とくに中低音の響きが充実していて、どっしりとした落ち着きを感じる。構成の面では十分に錬磨された解釈のように思える。どこにも不安がない。でも、感性の面で、どこか光ったところが欲しい、という無いものねだりの出る内容。
●カルミナQ。こちらも若い団体の演奏。オリジナリティは希薄だけど目のさめるような演奏。ヴィアノヴァQの切れ味と、ヌォーボQの伸びやかな歌の好いところをピックアップしたような爽やかで、勢いのある演奏。透明感のある音色がとても気持ちがいい。ラサールQやABQからの系譜を説かれることが多いけれど、彼らの演奏と似ているとは思えない。むしろ前期の団体に近いように思う。

 ラヴェルの弦楽四重奏曲も名曲で、取り上げたかったけれど、どうしてもドビュッシーとカップリングになるので、演奏の顔ぶれがまったくいっしょになってしまうので、割愛することにした。内容は今回と同じになっただろうと思う。ラヴェルのほうが、より明晰な音楽なので、多少向き不向きの傾向が入れ替わるかもしれないが、大差はないだろう。