フランク/ヴァイオリンソナタの演奏比較

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30.ヴァイオリンソナタイ長調

これぞフランス近代を代表する音楽として人気が集まる。プルーストが描くのもこの曲がモデルではないかと言われている。原曲の指定のヴァイオリンだけでなく、フルートやチェロ用に編曲され、さまざまなアプローチがされている。耳に馴染んでイメージか固まってしまった曲のようだけど、案外自由度が高いのではないだろうか。

デ・ヴィトー/アプレア デュメイ(旧)/J-Ph.コラール デュメイ(新)/ピリス シャルリエ/ユボー ズッカーマン/ナイクルグ ウィルコミルスカ/バルボサ ソネンバーグ/リカード ロベール/デスルヌ 五嶋/マクドナルド ランパル/バルビゼ ゴールウェイ/アルゲリッチ ノラス/リグット イッサーリス/ドヴォワイヨン

●デ・ヴィトー。たおやかというもう忘れてしまっていた言葉を思い出させてくれる演奏。柔らかな抒情で粘り強く盛り上げて行く。
●デュメイ(旧)。コラールのピアノがスケール大きく、デュメイの優美な音色が浮き立つようだ。フランコ・ベルギー派の美音の魅力を満喫できる。
●デュメイ(新)。ピアノがピリスに代わり、同質の音楽を奏でるようになった。細部まで円く転がすような音色。ただただうっとりする。
●シャルリエ。ヴァイオリンは少しゆるいような締まりのない音だけど、ユボーのピアノが細く清い音なので引き締め効果がある。シャープな盛り上がり。
●ズッカーマン。ゆとりのある音でたゆたう感じ。低音重視で官能を刺激するところがある。丁寧で各楽章の性格付けが明瞭。なかでも3楽章のどっしりと座った感じが力強い。最近、作曲家として名を上げているナイクルグのこの当時の伴奏は充実していた。
●ウィルコミルスカ。圧倒的なボウイングの力で迫力、集中力で人をひれ伏せさせるところがある。ときに時に細い音質が神経質さにつながるときがあるけれど、逆に鋭さの魅力にもなっている。
●ソネンバーグ。じゃじゃ馬が意外と大人しくしっとり弾いている。リカドのピアノがスケール雄大で、むしろリードする場面が目立つ。
●ロベール。二人の無名の女流演奏家。技術的には明らかに劣るようだけど、ピアノの頑張りと、ヴァイオリンの高音の緊張感を活かす演奏で、刺激的すぎる部分があるけれど盛り上がりは十分。
●五嶋。煩く感じるほどの強いアタック、そして弱音の繊細さ。振幅の大きさは随一。構成への目配り、一つひとつのフレーズごとの表情付けが綿密すぎて、音楽のほっといても流れる勢いの良さを失っているかもしれない。
●フルート版。ヴァイオリンと比較したとき、パンの笛ではなく、アポロの笛のように理知的に聴こえるのが不思議。ランパルはブレスコントロールが乱れていて美しくない。バルビゼはぼってりした音色と弾むようなリズム感で楽しい。ゴールウェイの方には息づかいの官能性が少し入っている。豊かでビロードのような音色で体温をより高く感じる。アルゲリッチは相変わらず切れ味鋭い。
●チェロ版。音が低く落ち着くだけで官能性からは遠ざかる。ノラスは重厚でハリのある強い表現。歌うことの上手さが際立つ。イッサーリスはガット弦特有の渋い音色でさらに知性と老成したものを感じさせる。歌い回しも慎重で、そっと何かをさぐったり、呟いたりしているようだ。

 点数が多いので、大まかな比較に終始してしまった。曲の構成が強固で、個々人の解釈の入る隙を与えないようだ。解釈よりもむしろ、それぞれの音色による個性が表に立つようだ。