ブリッジ

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ブリッジ、フランク
(1879~1941)
(255)幻想四重奏曲

 ブリッジはブリテンの先生として名前をとどめている感がある。「フランク・ブリッジの主題による変奏曲」がたまに演奏されるから、余計にそのイメージが強調されているのかもしれない。
 しかし、彼は質のいい室内楽をかなりの数残しているようだ。どれも小品で、人を圧倒するような記念碑的な大作を作っていないのではないだろうか。軽量級、つまり取るに足りない作曲家という扱いが待っている。でも、本当にそれだけの才能にすぎないのだろうか。だったら、ブリテンがオマージュを捧げるだろうか。
 ナクソスがいいCDを出してくれている。マッジーニQが4つの室内楽作品と4つの民謡編曲ものを録音している。この団体はイギリス音楽にかけては、いろいろ録音してかなりの貢献をしてくれている。ヴィルトゥオーゾの芸ではないけれど、安心して聴け、原曲を歪曲せずに伝えてくれているという信頼感がある。B面の知られざるレパートリーにとってはありがたい存在だ。
 ここで取りあげられている4つの室内楽はすべて3楽章構成。「幻想四重奏曲」「3つの小品」は第2楽章が緩徐楽章、「ノヴェレット」「3つの牧歌」は第1楽章がそう。そのそれぞれのゆったりした楽章で思う存分、感傷と郷愁に浸ることができる。なかでも標題の「幻想四重奏曲」のアンダンテ・モデラートの音楽は味わい深く、この感情の深さは凡庸な作曲家のものではない。ほかの曲がすべてこの作品からの引用、引き延ばしと貶すことも可能だろうけれど、ここではあえてそれをしない。
 というのも、イギリスの作曲家をあらしめているのが、すべて大英帝国の衰亡から発した郷愁の感情であり、その作品のすべてが、偉大なるテーマの変奏にすぎないのであってみれば、一人ブリッジの自己模倣をとがめだてすることはない。
 作風は温和で、イギリス民謡(小学校唱歌でお馴染みのアイルランド民謡やスコットランド民謡を含んだおおざっぱなイメージで)を素直にアレンジしているような感じがする。だとしてみれば、大英帝国が衰亡するまでもなく、イギリスには郷愁の素質があったのではないか、ということになるのだろうか。故郷を思ったり、幼時を振り返ったりするというのは精神的な退行現象で、現状に直面することを避けているということだ。
 当時、被支配国を中心に民族主義が勃興したと言われている。バルトークなどが代表例になっている。でも、フランスでもイギリスでも同時に自国の音楽的イディオムの研究が盛んになっている。その時とタイミングを同じくして衰亡曲線に入ったイギリスでは、元々郷愁を帯びた(ゲルマン人やローマ人に領地を追われた人たちの?)音楽に全員が飛びついたということだろう。社会全体の気分がそれらを受け入れやすくしていのだ。
 ブリッジもその代表となって、いい作品を書いていた。だからこそ、ブリテンも彼を大教師と仰いだのではないか。そう考えることではじめて納得がいく。

マッジーニQ「幻想四重奏曲ほか」NAXOS 8.553718