C.バッハ

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バッハ、ヨハン・クリスチャン
(1735~1782)
(166)フルート、オーボエ、ヴァイオリン、チェロとチェンバロのための五重奏曲ニ長調Op22-1

 ロンドンのバッハ。モーツァルトは6歳のとき、ザルツブルクから西方への大旅行に出て、3年間かけて諸国を経巡った。パリを経て、7歳から8歳になる頃にかけて1年ばかりイギリスに滞在した。そのとき親しく交わったのがクリスチャン・バッハだ。
 やっと交響曲をはじめて作曲しようかという時期。音楽の楽しさや展開の面白さなどさまざまな点で優しい小父さんがお手本となった。パリで大収穫を得るつもりだったのに、ヴェルサイユの音楽家たちの質が低下していた時期で、ドイツ人のショ-ベルトくらいしか興味をそそられる対象がいなかった。その後だけに、新しさ、面白さに夢中になったようだ。バッハのほうも、神童をめずらしい見世物としてではなく、すぐれた音楽仲間として遇したようだ。それだからこそ、十数年後、二十歳すぎのモーツァルトとパリで再開して、その成長をだれよりも喜んだのだ。
 ついつい、クリスチャンのことはモーツァルトとの関係、父親との関係で語られてしまう。イタリアに学んでオペラ作家として活躍したのだが、そのオペラが現代では無視されてしまっているので、ナポリ派の作曲家としても、ドイツの作曲家としても言及される機会を失ってしまっている。
 B面としてはもとよりオペラは相手にしていない。しかし、彼の室内楽には大注目。ジョージ�。世の妃ソフィー・シャルロットの音楽教師となって、社交界のための室内楽を量産している。それが楽しく機知に富んでいて、たしかにこれならモーツァルトが夢中になるのも当然だと思える。クリスチャンが死んだとき、モーツァルトはウィーンで独立して売り出し中で大注目を浴びているときだったが、「音楽界にとってとっても残念なことです」と父親に書き送っている。
 取り上げた曲にみるように楽器の組み合わせが多彩で、何曲も続けて聴くときなど、飽きないですむ。残念ながら、1枚全部がクリスチャンのものという盤は少ない。そんなかでイングリッシュ・コンソートが4曲まとめて録音してくれているありがたいCDがある。これが大推薦。4曲全部にオーボエが登場しているし、ほかにもオーボエ四重奏曲があるので、本人がかなりオーボエ好きだったとみえる。
 ジョージ�。世という人が英国王室ではめずらしくスキャンダルと無縁の人で、妃もふくめて温和で良識的。そのような気風を満足させつつ退屈させない音楽趣味は大変高度なものと言える。ロココ、古典派の最大の長所は「趣味」だ。バロックが「ゆがんだ真珠」という意味で、「悪趣味」だったことにたいする反動から、この時代は大変に趣味がいい。ワトーやブーシェなどの絵画に代表される世界。それをクリスチャン・バッハは音楽で築き上げた。

イングリッシュ・コンソート「五重奏曲、六重奏曲」ARCHIV F32A50103
スティル、パールマン、ズッカーマン、ハーレル「Ob四重奏曲」EMIEAC90045