ソレール

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ソレール
(1729~1783)
(165)ソナタ集

 スペインの作曲家。ポルトガル王女の音楽家庭教師で、嫁入り先のスペインまで同道したドメニコ・スカルラッティのソナタの流れをくんで鍵盤楽器のための単一楽章のソナタを書き続けた。その趣はほとんど大先輩と同じ。違うところは、どの曲にもスペインの香りが高いところ。大流行りした「ファンダンゴ」なども作曲していて、少しあたらしさもあるけれど。
 時代を先取りする作曲家もいれば、ずっと後から追い掛けて、同じ枠のなかで先代を乗り越えようとするものもいる。追い掛けた先代が555曲も作曲した巨人作曲家だったために、百数十曲作っても追い抜けなかった。背比べする相手が悪い。同じ弟子どうしだったら、セイシャス、カルヴァリョ、アルベロ、ネヴラ、ララニャーガなどよりも遥かに巨大な見上げる高山であることが分かってくる。面倒な比較などする前に、ソレールとスカルラッティを直接比べてみれば、まったく遜色ないことがすぐに分かる。
 ソレルがスカルラッティの伝統を引き継いでいるように、彼を得意としているラローチャはグラナドス、フランク・マーシャルと受け継がれてきたスペイン・ピアニズムの申し子。伝統の意味を知るものが、古い伝統を新しい伝統に引き寄せて弾いてみせる。
 当時の鍵盤楽器はチェンバロが主流で、これらの曲が演奏されたのも主にチェンバロだった。しか、現在こ曲を聞くためにはむしろピアノのほうが向いている。余韻を長くとることができるので、響き、ハーモニーの美しさを追求できる。音と音のあいだに間があくと、そこに瞑想空間が立ち上がってくる。チェンバロではただ、ガチャガチャとうるさいだけだった音楽が、どういう訳か、すばらしく美しい透明な音楽に化けてしまう。その点はスカルラッティも同様。ただ、ソレルはスペイン的な熱狂と憂愁が少しだけ濃くなっているので、その分、ゆったりと間をとった演奏によってその魅力が開花するもののようだ。古典派の時代にバロック時代と変わらない音楽を作っていた時代遅れの作曲家の音楽に、ロマンの香りが溢れているのも不思議なものだ。スカルラッティが最先端の音楽家だったということもあるのかもしれないが。
 「ファンダンゴ」はボッケリーニのギター五重奏曲でも名曲があるけれど、ソレルのものもなかなか。スペイン的熱狂を代表する曲種。こればかりは賑やかさが欲しい。チェンバロのほうがふさわしいのかもしれない。残念ながらラローチャが弾いていないのでピアノでの成果がいま一つ分からないまま。チェンバロではスコット・ロスが華やかな饗宴を現出させてくれている。

ラローチャ「スカルラッティ/ソレル ソナタ集」LONDON L28C1149
ロス「ファンダンゴ、9ソナタ」ERATO 2292-45435-2