W.F.バッハ

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バッハ、ヴィルヘルム・フリーデマン
(1710~1784)
(163)2本のフルートのためのデュエット

 天才だけど性格破綻のために失敗したと聞いて、曲を聞く前に気に入ってしまうのは筆者だけだろうか。大バッハの溺愛された長男だけど、次男エマニュエルや末っ子のクリスチャンのようには現在親しまれていない。大バッハからその作品の楽譜を大量に譲り受けていて、それを酒代のために2束3文で売り飛ばしたとか、名前を書き換えて出版したりと不行跡が目立つ。酒、博打、女。昔からのお決まりのパターン。不品行のお手本のような人。
 だけど、二十歳過ぎでもうバッハの代役を務めたりしているし、シャイトやツァッハウなどかつての巨匠が務めたハレの聖母教会のオルガニストにも任命されている。当代随一のオルガニストの評価も受けている。どうやら楽譜に書き記された作品ではなく、即興演奏が認められていたようだが。即興が巧みだということは、すなわち作曲能力が高いということ。それは彼の父親、ヘンデル、モーツァルト、ベートーヴェン、偉大な作曲家がそれを証拠づけている。まじめに作曲に勤しんでさえいれば、後世の私たちは大きな財産を手にしていたのだろうと惜しまれる。
 若いときの作品に見るべきものが多いと言われる。歳を経るにしたがって生活が乱れ、作曲どころではなくなっていく。せっかくの名誉ある聖母教会のオルガニストの座も追われてしまう。放浪のあげく、弟が大バッハと呼ばれているベルリンに流れ着き、のたれ死にしたという。父親の作品をないがしろにしたことで、真面目な弟から絶交されていたのだろう。頼っていきながら、頭を下げきれず、というやつなのだろう。あわれ。無惨。
 推薦する曲は父親が存命中の30年代の作品。本人まだ20代、少しは真面目さが残っていた時期。2本のフルートが爽やかな音色を競う作品。メロディーラインが織り成す模様は匂いたつ草花か。上品でセンス良く、理知的ですらある。父親の対位法の堅苦しさはどこにもなく、なめらかな音楽。音楽が泉から自然に湧き出てくるような豊かさ、奔出感がある。モーツァルト、ロッシーニ、メンデルスゾーンなど若くして才能を発揮する人に共通の音楽の奔流だ。ただ、性格破綻によるものなのか、突然流れが淀み暗く沈んでしまう部分がある。父親の「音楽の捧げもの」の主題のように半音階の不安定な音楽に迷い込む。その不思議な展開が最大の特長かもしれない。6曲あるけれど、前半4曲が20代のもので、残り2曲ははっきりしないらしい。それでもそんなに遜色ないけどね。
 演奏のニコレ夫妻も、肩の力の抜けた心地よく、粋な演奏。こんな地味なレコードをよくぞ買っておいたものだと、自画自賛。バッハの息子まで追い掛けるレコードコレクターは小数。それなりに音楽の知識が豊かであればフリーデマンの悪い噂を耳にしている。となれば、レコードを出しても売れない。フリーデマン再評価の機会が訪れない悪循環。よくぞ、このレコードを企画して発売にまで漕ぎ着けたものだと、ニコレたちもそうだけど、スタッフを賞賛したい。

ニコレ夫妻「2本のフルートのためのデュエット」DENON OF7062ND