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zoom RSS くれなずむ音楽「第1回 サンサーンス/ヴァイオリンソナタ第1番」

<<   作成日時 : 2012/04/21 14:12   >>

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第1回 サンサーンス『ヴァイオリンソナタ第1番』

 サン=サーンスは内容のない作曲家としてつとに名が高い。演奏会でよく取り上げられる『交響曲第3番』『序奏とロンドカプリチオーソ』『ヴァイオリン協奏曲第3番』『ピアノ協奏曲第2番』などがすべて外面的な効果しかないと断罪されてしまっている。さらにひどいことに『動物の謝肉祭』にいたっては、作曲の能力がないから他人の曲を借りているのだなどという“とんでも論”まで飛び出す始末。ここまで行かなくても子供向きの作曲家に押しとどめるのに恰好の材料となっている。この時代には稀な300曲以上にも上る作品をものした大作曲家であり、本人はこの作品はパスティーシュなので、オリジナルの『白鳥』以外は作品と認めず、出版を許していないというのに。
 サン=サーンスは自身の心の中にはいくつもの闇を抱えた人であった。しかし、音楽には一切表に出さず、徹底してポジティブな価値観を与える音楽作りを行った。
 『交響曲第3番』と標題に取り上げた『ヴァイオリンソナタ第1番』は構造的によく似た双児のような作品。どちらも2楽章、それぞれの楽章が前半後半の2部構成になっており、最終、天上界を目指すような浄福感に満たされる点て共通している。交響曲が明朗な讃歌になっているのに比べ、ソナタは中空を螺旋階段で駆け上がる無窮動となっている。無窮動の圧倒的な球心力が、ソナタに軍配を上げる理由だ。ただし、その解釈に成功しているのはズッカーマンただ一人。吉田秀和は五嶋みどりがこの曲を取り上げた時、“これから精神的な充実を迎える時になぜこんな曲を”と不快感を示していたほどだ。おそらくハイフェッツあたりの、ただ速く奏けばいいだろう、というような演奏しか耳にしたことがなく、そこから曲の持つ力を想像しえなかったのだろう。ドイツ的な教養主義にどっぷり浸かった精神にはベートーヴェンの悲劇から喜劇へという構図は肯定できても、サン=サーンスの全面的な人生肯定は受け入れられないに違いない。
 ドビュッシー以降の音楽の“進化”を認めず、ワグネリズムに反対し(第2次大戦におけるナチズムとワーグナーの関係を予見していた)、復古主義的に新古典主義の道を開いた大権威であった彼を、メシアンは“大災厄”と呼んだ。その疫病神の音楽からこれだけの至福の思いを与えてもらえるなどと、誰が想像するだろうか。
 虚心にズッカーマン(伴奏のマーク・ナイクルグのピアノも素晴らしい)の演奏を集中して聴いて欲しい。音楽が生み出す情調の流れが理詰めでどこにも違和感がない。そう、感情にも理屈がある。Aの感情からBの感情へ移行するには、それなりに感情の流れの説得力がなければならない。即物主義を経た後の今日の演奏家は、楽譜に忠実というお題目を掲げて楽曲分析に励み、パート、パートの表現を固めて行き、それを張り合わるようにして、音楽を作り上げているように思う。だから音楽の感情に流れがない。流れを重視しているのはヴァイオリンでズッカーマン、チェロでイッサーリスとノラス、ピアノでコヴァセヴィッチと数が少ない。それに集中して聴かないかぎり、流れは伝わってこない。分析派の演奏は、ながらで聴いていても、サワリだけで善し悪しを云々できる。流れ派の分が悪いのも当然か。しかし、上手いとか下手を云々するのではなく、本当の感動を得たければ流れ派を聴かなければ意味がない。
 ということで、真の感動をもたらすことのできるズッカーマンの解釈を得て、このソナタはついに真価を発揮して、無類の高揚感を与えてくれる音楽となったのだ。その目で見直すと、サン=サーンスの作品のいたるところに浄福のサインを見い出すことができる。まことに得難い存在だ。
 悲劇や地獄は容易に描写できる。ところが目指したい天国や平安は描くことが難しい。どうしても平板になる。その難しい課題を易々と実現し、美しい感動に導いてくれるのはサン=サーンスを措いて他にない。モーツァルトやメンデルスゾーンにも近いものはあるが、どこか薄幸のイメージが付きまとう。他は安っぽい書き割りのようになってしまう。唯一デッサンのしっかりしたテンペラ画を完成させたのがサン=サーンスなのである。
 ついでに言うと、交響曲第3番の演奏はチョン・ミュンフンに止めを刺す。演奏が美しく清浄なことも素晴らしいが、カップリングにメシアンの『キリスト昇天』を持ってきた才覚に惚れ惚れする。サン=サーンスを“大災厄”と罵った作曲家が、精神においても音色においても、音楽上の近い子孫であることを如実に示しているからだ。




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