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zoom RSS 40年代ピアニスト/第25回「C.オルティス、G.ソコロフ」

<<   作成日時 : 2012/04/14 17:05   >>

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●『クリスティナ・オルティス』1950〜
※参考盤:「ヴィラ=ロボス/ブラジル風バッハ第4番」「ヴィラ=ロボス/ピアノ協奏曲全集」

オルティスはブラジル人で、ヴィラ=ロボスという独占的なレパートリーを持てたこと、そしてDECCAのプロデューサーを夫に持てたこと。この二つの幸運に恵まれた。
技術的には特別に優れているわけではない。作曲家の個性を表現するのに困らないレベルのものはすべて持っている。大感動に至らないのは、オリジナルの切り込みがないのと、大きな構成力に弱味があるかもしれない。
といいつつ、リサイタルのアンコールではじめて知ったシリル・スコットの「蓮の国」が大のお気に入りなので彼女には感謝しているのだ。


●『グリゴリー・ソコロフ』1950〜
※参考盤:「ショパン/ピアノ協奏曲第2番」「ショパン/前奏曲・葬送ソナタ・練習曲Op.25」

たしか16歳でチャイコフスキーコンクール史上最年少で優勝した天才。まだ記録は破られていなかったと思う。そして、早咲きだけで終らなかったのがこの人の立派なところ。
マイナーレーベルに録音しているので、今のところショパンしか聴いていないけれど、器の大きさ、音楽にのめり込む深さなど、尋常ではないものを感じる。
力強く太いタッチ、揺れるテンポ、聴きなれないフレージング。音楽に入り込んでいるから見えてくるフレージングや、だからこそ制御が利かなくなりそうな痙攣的な昂揚。
客観的な構図からいえば歪な音楽かもしれない。でも、これぞ自分の音楽という信念の裏打ちのある演奏ほど、聴いていてワクワクするものはない。おそらく実演で一番聴き応えのあるピアニストだろう。


40年から50年まで11年間に生まれた37人を取り上げた。前回の特集で取り上げたコヴァセヴィッチも含めて38人。世界的にステレオが普及し、急速にLPの需要が拡大した時代にピアノ演奏のスタイルを基礎付けた人たちである。
もちろん、彼らにも師匠がいるし、憧れのお手本がある。それは戦前から戦後にかけて活躍した巨匠たち。その演奏をなぞり、乗り越えて行ったのが彼ら。
シュナーベル、フィッシャー、バックハウス、ケンプといったドイツ本流のスタイルはグルダらウィーン三羽烏やブレンデルによってやや薄められた形で受け継がれ、最近ではシフがその方向に靡いているようだ。音楽に何か偉大な思想を込めたがっている、こけ脅しが強く、音楽そのものの生命力が希薄なもの。
ルービンシュタインやホルショフスキといったポーランド派はまず豊かな音色の魅力で人を惹き付ける力があり、フレーズごとにどっしりとた充足感を求めている。人生肯定的であり、悲劇や、極端な繊細さは描き出せない弱点を持っている。この方向を突き進んだのは、ゲルバー、フレイレといった南米勢。若い人たち(もう全員60歳以上ですが)の方が一瞬の輝きに満ちている。再生メディアが発達し、参照源が増えている分、表現はより研ぎすまされている。ただ逆に貧しさが精神性につながったり、豊かさが野放図さにつながったりするので、芸術は一筋縄ではいかない。
フランスにはタイプの異なるピアニストが目白押しだった。コルトー、ロン、ギーゼキング、カサドジュ、ナット、ルフェヴュール、ペルルミュテール、タリアフェロ。戦後、フランソワが先頭を切って飛び出して以来、チッコリーニ、バルビゼ、アントルモン、ハイドシェックと続き、両コラール、ベロフ、ロジェ、デュシャーブル、ダルベルト、グリモーなど陸続と力強い個性の主が生み出されて行く。
ブゾーニ以降絶えていたイタリアのピアノ界もミケランジェリの出現により、突き詰めた音楽作り、方法論を持った演奏というものが見られるようになる。それがポリーニという傑物を生み出した。
ロシアはラフマニノフ、プロコフィエフ、シロティなどの衣鉢を継ぐものが数多生み出された。モスクワとレニングラードの両音楽院で完璧なメソッドとして守り育てられ、リヒテル、ギレリス以来、途切れることなく、巨匠的なピアニストを生み出している。性格の強さ弱さといった差はあるものの、完璧なテクニックと強烈なパワーという物理を身に付けたうえでの個性の差なのである。
イギリスはヘス、ソロモン、カーゾン、カッチェンという優れた演奏家を生み出している割りにはスクールとしての認識は得られていない。ヘスとコヴァセヴィッチの強い結びつきくらいだろう。
ホロヴィッツのような一瞬の閃きに魅力のあるのはアルゲリッチくらいか。ゼルキンの愚直さを受け継いだのはペライア。本家に比べるとずいぶん器用だし音色も美しいけれど。息子のピーターは親父に似ないでおこうとしている点で逆に強く影響を受けていると言えるだろう。
こうして見ると、戦前からお手本から大きく逸脱して、新しい個性を作り上げたのは、エッシェンバッハの暗く陰気な陶酔、シドンの独自のアゴーギグ、ポリーニの透視図法、ルプーの瞑想、ワッツの運動能力、ベロフの自己客体化、音楽の機械化、といったところだろうか。
小生のお気に入りのコヴァセヴィッチにはあきらかにお手本がある。しかし、その到達した頂上の高さはヘスをはるかに凌ぐ。このように師を超える例はきわめて少ない。
この後、53年生まれのシフ辺りから、どうやら、時代を築いていたはずのグールドの影響を受け始める。再生メディア勃興期の空白を埋めた世代であり、その後の筋道を示した世代である。51年以降にももちろん個性的で偉大なピアニストは何人もいるけれど、40年代グループは師匠の影響を受けていても、どこかオリジナルだったのに、以降の世代はオリジナルのようでいて、どこかで聴いたような、という思いを拭い切れない。
そういう意味でこの11年間が黄金の世代なのだ。

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