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zoom RSS コヴァセヴィッチ楽派宣言57 ベートーヴェン/『ディアベリ変奏曲』他

<<   作成日時 : 2010/11/20 09:53   >>

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No.54『ベートーヴェン/ディアベリ変奏曲』
    ベートーヴェン/ディアベリの主題による33の変奏曲
    バッハ/パルティータ第4番BWV828
    ONYX ONYX4035 08年7月録音
        
 レーベルを移籍して新たな領域へ一歩を踏み出そうとしているようだ。ほぼ40年ぶりとなる“ディアベリ”との取り組み、そして録音活動でははじめてとなるバッハ。このレーベルでの仕事にかける意気込みのほどが伝わってくる。ONYXが地味だけど誠実な仕事をしているアーティストを厳選している様子なのも頼もしい限り。腕利きのプロデューサー、ディレクターがいるのだろう。彼らとの蜜月がつづけば、いいアルバムが生まれて来ることへの期待は高まる。
 デビューがらみの曲の長い時間を経ての再録音ということで、グールドの前例を思い出してしまうのだが、どうやら録音後1年を経て不幸なニュースを聞かないので、どうやら鬼門は脱出したようだ。大ベテランとなったコヴァセヴィッチの自由闊達な芸風に、今後さらに磨きがかかることを祈りつつ、最新のアルバムを聴いてみよう。

【ベートーヴェン/ディアベリ変奏曲】   
 速くサラサラとした演奏。軽い気持ちで弾いているようなこなれた感触が伝わってくる。40年前の録音に比べて集中度が低いようにも受け取れる。しかし、じつは集中のタガを少し弛めることで1曲1曲がより個性化されていて、退屈の入り込む隙がない。
 リズム感や、低音の独得の弾むような音色、それを利用した前進力についてはデビューのころからほとんど何も変わっていない。変わったとすれば、それ自体コヴァセヴィッチ独得の魅力の一つとなっていた、すべての曲が幻想曲かと思わせるような深い瞑想性、それが少し衰えて、曲全体により活動的なイメージが与えられるようになった。そして、一般のピアニストとは逆に70歳近くになって技術を聴かせることに興味の中心を移そうとしている。
 たとえば第1変奏でどっしりとした低音の打鍵を聴かせ、第2変奏ではモコモコと地の底から湧き起るようなリズムの面白さ、第3変奏は優しいスラーを中心としたレガート、第4変奏加速、第5変奏荒さの魅力、第6変奏すばやいトリル、第7変奏スキップ、第8変奏トランクィロ、第9変奏高音と低音の交替と三連音。といったようにそれぞれの変奏に技術的な課題があり、その課題こそが音楽の魅力に直結していることを証明しているような演奏になっている。
 すべての変奏がイキイキしているのでベトーヴェン初心者が聴いたとしても楽しめる演奏なのだけど、ピアノのテクニックに詳しい人が聴けば、ピアノを弾くことの楽しさが全曲を貫いていることに感動を覚えるだろう。テクニックをひけらかすヴィルトゥオーゾではなく、自分自身徹底してピアノを弾くという行為にこだわり抜き、楽しみ抜いた結果がここに示されている。
 それだけでは終らないのが、レポレロの主題が提示される第22変奏以降の精神的な深まり。抽象的で辛気くさい音楽になりがちな後半で、これほど音楽がのびのびと息づいていることはめずらしい。ワルツが元となった楽しい変奏曲という枠組みを守りながら深遠な世界に到達する。ピアノの技術ともども精神的な処理についても曲芸的な実りをもたらした。デビュー50年になんなんとするアーティストの懐の深さにあらためて感動する。

【バッハ/パルティータ第4番】
 リサイタルでは時おり取り上げてきた曲。おそらく取り組みはじめて40年ほどが経過しているのではないだろうか。72年来日時の別プログラムに確認できる。それほどバッハにたいして慎重な姿勢を守ってきた。リリースするということはその裏付けとなる自信が確固たるものになったということだろう。
 なんと静謐な音楽なのだろうか。ベートーヴェンの動にたいして、完全な“静”。バッハの音楽は思惟の固定化であり、元々スタティックな性質がある。ベートーヴェンの後で聴くとなおさら静的な音楽に聴こえてしまう。
 しかし、じっと耳を傾けていると、コヴァセヴィッチのピアノはバッハの対位法にたいして、各声部を分離させて聴かせるという当たり前の範囲を超えて、右手と左手が完全に独立した人格となって演奏している。両手が均一の時間でコントロールされるのではなく、それぞれに独立した時間軸で動いている。完全に合っているようでいて、微妙なズレが楽しい。その瞬間に遠慮がちに音楽が動きはじめ、モノクロームからフルカラーの鮮やかさを示し出すのだ。
 序曲でみずみずしい楽しさの礎ができてしまうと、舞曲をもとにしたつづく6曲はお手のもの。弾んだ楽しさ、静かな瞑想、勢いにまかせたハツラツさなど一瀉千里の勢いだ。

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