B面クラシック くれなずむ音楽

アクセスカウンタ

zoom RSS コヴァセヴィッチ楽派宣言56 ショパン/ワルツ全集他

<<   作成日時 : 2010/11/13 18:38   >>

トラックバック 0 / コメント 0

画像
No.53『ショパン/ワルツ全集』
    ショパン/ワルツ第13番変ニ短調Op.70-3
         ワルツ第10番ロ短調Op.69-2
         ワルツ第14番ホ短調遺作
         ワルツ第1番変ホ長調Op.18“華麗なる大円舞曲”
         ワルツ第3番イ短調Op.34-2“華麗なる大円舞曲”
         ワルツ第11番変ト長調Op.70-1
         ワルツ第9番変イ長調Op.69-3
         ワルツ第2番変イ長調Op.34-1“華麗なる円舞曲”
         ワルツ第4番ヘ長調Op.34-3“華麗なる大円舞曲”
         ワルツ第5番変イ長調Op.42
         ワルツ第12番ヘ短調Op.70-2
         ワルツ第7番嬰ハ短調Op.64-2
         ワルツ第6番変ニ長調Op.64-1
         ワルツ第8番変イ長調Op.64-3
    ラヴェル/高雅にして感傷的なワルツ
    EMI3467342 05年7月14〜19日録音

【ショパン/ワルツ全集】
 録音点数こそ少ないけれど、コヴァセヴィッチをショパンのスペシャリストと呼びたい。これほど深々とショパンの音楽を呼吸するピアニストは他にいない。
 ルービンシュタインからアシュケナージに通じているよう伝統的なショパン様式、あるいはフランソワやポゴレリッチのような自分の世界に沈潜するスタイル、ポリーニのような構造が透けて見えるよう客観的スタンス、アルゲリッチの一瞬の煌めきにかけるアプローチ。ショパン弾きと呼ばれる人たちにもいろいろある。
 そのどれとも違っていて、その確立された流派とも呼ぶべき方法と拮抗する価値のあるスタイルを築き上げたのがコヴァセヴィッチだ。彼の方法は、音楽の流れを徹底的に洗い出すこと。テーマの変容、和声の構造などといった一般論的なことではなく、一つひとつのフーレーズごとにそのあるべき匂い、タッチの微妙な変化による音の感触、肌に触れる風合いの違いのようなものを感じさせるまでにリアルで生命力の溢れる音を作り出す。そうして送りだされた音は自発的に呼吸を開始して、自らの意思にしたがって行きたいところに進みはじめる。
 こうして生命を与えられた音楽は、ショパン特有の儚さや絶望を含んでいても、命あるがゆえに死の暗さを持たない。繊細このうえないような微妙な精神的な変化のすべてを伝える演奏なのに、あえて健全で力強い演奏と言ってもいいほどなのだ。相容れないはずの二つの精神が強固に合体してしまう。それがコヴァセヴィッチが特別な地位を要求する(本人はちっとそんな素振りは見せないが)所以。そして、このショパンが唯一無二のものである所以でもある。

 さて、PHILIPS時代に録音した“幻想ポロネーズ”“舟歌”ほどにはヴォリューム感のないワルツだけに、独特の深々とした呼吸のためには曲の器が少し小さい感もある。しかし、ワルツはコヴァセヴィッチのフェティッシュでもある。1曲1曲への慈しみがしみじみと伝わってくる。ここでコヴァセヴィッチが音楽の中から嗅ぎ出したのは、サロンに漂う脂粉の香り。艶やかに着飾り妍を競う女性たち。恋の期待と破局。追従と裏切り。そんなサロンならではの気品と色香をパートナーとして、軽やかにステップを踏んでいる。
 リズムの軽い跳ね上がり、しっとりとゆるやかなメロディーライン。しなだれかかるような下降スケール。リズムの形を微妙に変化させながら聴かせる2度目のメロディー。激しさは表に出た音の形より内に秘められたエネルギーとして現れるケースが多い。華やかな愛敬、艶冶な下降、抜け目ない駆け上がり、華やかなはしゃぎのあとの悲しさ、親しく付き合っている憂鬱さ、脆く崩れそうな心。
 ショパンの創造になる音楽の核心が、その心の襞の一つひとつをさらし、ほとんど万華鏡のように惜しげなく振りまいている。そんな目くるめき思いがする。まさにスペシャリストならではの、徹底した追究だ。

【ラヴェル/高雅にして感傷的なワルツ】
 これはラヴェルの機知とアイロニーが作り出したワルツ。単純な礼讃の音楽ではなく、どこか芯のほうに冷めた部分が感じられる。
 コヴァセヴィッチとしてはもっともシャープな部類のタッチ、音色を動員してクリアな造形を試みている。
 ラヴェルの音楽はつねに映像的で、印象というより、もっとリアルな映像に裏打ちされている。ここでもコヴァセヴィッチの演奏から人によってさまざまな映像が浮かんでくるだろう。それほどに造形がクリアである。ゴージャスな音楽が鳴り響く舞踏会場、喧噪のなかで一人静かに佇む人、トイピアノのような音色とともに現れる中国人、森を見る夕景、都会の夕景、洒脱な紳士、過去に思いを巡らす紳士の沈思黙考。
 当たっていようとなかろうと、ともかくなんらかの映像を招き寄せる音楽であり、演奏だ。

 2度目のEMI時代の掉尾を飾るにふさわしい、コヴァセヴィッチらしさに満ちた、洒落た内容に熱い思いを載せた秀作となった。もって慶すべし。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

コヴァセヴィッチ楽派宣言56 ショパン/ワルツ全集他 B面クラシック くれなずむ音楽/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる