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zoom RSS コヴァセヴィッチ楽派宣言54 ベートーヴェン/ピアノソナタ第29番『ハンマークラフィア』他

<<   作成日時 : 2010/10/30 10:53   >>

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No.51『ベートーヴェン/ピアノソナタ“ハンマークラフィア”』
    ピアノソナタ第29番変ロ長調Op.106“ハンマークラフィア”
    バガテルOp.119
    ピアノソナタ第26番変ホ長調Op.81-a
    EMI5573982 01年10月 02年6月録音

 この盤における再録は少し意味合いが異なる。宇宙的深遠さがあると言われる“ハンマークラフィア”だけど、じつはミクロコスモスのようなバガテルのOp.119と近い関係にあるということで選ばれている。未知の曲の水先案内人でもなけばクールダウンでもない。タイトル付きの2曲ととも有意義な選択。コヴァセヴィッチのこの盤にかける思いの深さが伝わってくる。

【ピアノソナタ第29番“ハンマークラフィア”】
 第1楽章、全集にかけた10年分の気合いを込めた一撃。たゆたいの世界に流れ込もうとする音楽と、それを追い立てようとする気合いの激しいせめぎ合い。もつれ合いはいつしかフーガの高みへと駆け上がっていく。
 第2楽章、ゆっくりのんびりした音楽で面白哀しい面持ちがじんわりと伝わってくる。中間部でいったん加速して速さを感じさせたと思ったら、元のテンポにすぐ戻る。
 第3楽章、アダージオ、物思いたげな音楽。瞑想の世界といってもいいのだろうが、一瞬現れる美しいメロディーの通俗性によって、哲学よりももっと下世話な思いに煩わされていると感じさせられる。
 終楽章、ラルゴ。アダージオとどちらが遅いのかななどと考えていると、音楽はアレグロに転じる。とてつもない速さ。プレスティッシモと言うべき速さ。コヴァセヴィッチは愚直なまでに速さを追求している。目くるめき速さなのに息苦しくなく、イキイキと音楽が息づいていて、難所だということを忘れさせてしまう。その上で音楽自体のエネルギーは存分に伝わってくる。

【バガテルOp.119】
 全体にゆとりのある演奏になっている。前回PHILIPS時代には音楽の奇矯さを強調しようとしていたが、今回は、たとえば第10番、わずか13秒の作品であっても、“ハンマークラフィア”と拮抗、あるいは通底するものがあることを分からせようと、音楽の内容をじっくり聴かせている。

【ピアノソナタ第26番“告別”】
 第1楽章、序奏を終って主部に入ったときの和音の明るさ。なんという喜び。勢いに乗るのが当然のような音楽だ。しかし、その後は勢いあるテーマが分割され崩壊させられていく不安に苛まれる。
 第2楽章、特徴的な軽く跳ねるような音楽。それが淡々と持続するのではなく、数歩進んで、ターンタタンと途切れてしまう。剽軽な感じもあるけれど、音楽がつづかず寂しさの影を宿している。
 終楽章、不安や寂しさから解放され、楽しさに満ちあふれて一気に駆け上がる。

 コヴァセヴィッチはベートーヴェン後期特有の哲学性にも意を用いながら、あくまでも音楽が自律的に活動するように、音楽の前進力となる低音の弾みとキレのいいリズムを重視している。EMIに復帰して以降、年々ヴィルトゥオーゾスタイルへの親近感を表すようになっている。トリルやスケールなど、ピアニストの技術的な満足の追求の部分に嬉々とした素直な喜びが感じられるようになっている。それは“ハンマークラフィア”においても十分に体験できる。彼がなまじのヴィルトゥオーゾと違うのは、曲芸的な上手さを実際以上に難しく感じさせるような姑息なことをしない(その姑息さこそがヴィルトゥオーゾだという意見もある)。自分は技術を楽しんでいても、聴き手には音楽の精神的な部分に集中していて欲しいとの考えではないだろうか。あっぱれな弾きっぷり。

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